DevLOVE「新陰流ユーザビリティ勉強会」へ行ってきた

月曜の夜、DevLOVE「新陰流ユーザビリティ勉強会」へ行ってきました。

楽しかったです! DevLOVEは、勉強になるし、気づきがあるし、なにより、やる気を持ち帰らせてもらっています。

今回参加したのは、最近、「ユーザビリティの検証方法」や「開発でのユーザビリティへの配慮の導入」に興味があるためです。先日つぶやいたとおり、次のサイトを知ったことがきっかけで、ユーザビリティについて考えるようになりました。

というわけで、手元にあるまとめと感想をメモしておきます。

柳生大介さんの発表『新陰流のユーザビリティ

ITリテラシへの思いやり

使いにくいシステムについて、ユーザへの通達や勉強会をすることで、不便を補おうとすることがある。しかし、これは、システムの使いにくさをユーザのせいにするアプローチだ。

たとえば、テキストフォームの横に「半角」や「全角」と注釈を書くのは、一見、親切だと思うかもしれない。しかし、真のパソコン初心者は、半角や全角が何であるかを知らないものだ。分からなくても入力できるのが使いやすさである。

ユーザのITリテラシへの思いやり、つまり、「システムを誰が使うか」という観点での気配りが必要だ。

思いやりがないとお金もムダになる

使いづらいシステムは、使われない。そして、使われないと、システム構築に投じられた大金が、丸々ムダになってしまう。

企業においてはビジネスチャンスを喪失することになり、政府においては電子申請の普及を妨げることになる。また、今後、社会に高齢者がますます増えることを考えると、高齢者にとって使いづらいシステムは、巨大なマーケットを失うことに直結することになるだろう。

ユーザビリティアクセシビリティ向上のためのアプローチ

現在、電子政府ユーザビリティガイドラインの制定が進められている。これに従うことは、ユーザビリティの向上を実現するための一つの方法だ。将来、中央政府地方自治体のシステムでは、このガイドラインを守ることが求められると思われる。公共系システムに携わる人は、気にしておくとよいかもしれない。

他にも標準規格が策定されつつある。国際的な規格には、WCAG2.0がある。JISには、JIS X 8341がある。中でも、JIS X 8341-3はWebコンテンツに関する指針。この規格は少し抽象的なので、実務では富士通ウェブ・アクセシビリティ指針も参考にするとよい。

ユーザビリティを検証するためのツールも、無償のものから有償のものまで多く出ている。富士通アクセシビリティ・アシスタンスウェブアクセシビリティチェックサイトHAREL など。Eclipseで使えるアクセシビリティ評価ツール(ACTF Project Home | The Eclipse Foundation)もある。こういったものを導入するのも手。

また、ユーザビリティアクセシビリティの土台として、人間中心設計という概念がある。名称で抵抗感を持たれることがあるが、これは「ユーザ中心設計」の意だと考えてよい。これは、機能中心の反対の概念である。

システム開発で使いやすいシステムを作る方法については、ITProの柳生さんの連載(使いやすいシステムの作り方:ITpro)を参照のこと。次の内容が取り上げられている。

  • グループインタビュー
    • 集約、分析、潜在ニーズの把握、実現案の策定…
  • ユーザビリティテスティング
    • 5名以上によるテストで80%の問題を洗い出せるといわれている
社内導入の課題と今後のアクション

本来、システムのユーザビリティ向上には、顧客やエンドユーザをも巻き込んで取り組んでいく必要がある。しかし、ユーザビリティへの取組みは、費用対効果を示しづらい。そのため、説得が難しいという課題がある。

柳生さんも、アクセシビリティに関するガイドラインの導入は、ユーザや開発者の意識を変える必要があるために、苦労されている。しかし、チェックツールの導入は、比較的簡単に社内へ広めることができたとのことだった。

柳生さん「できそうなことは、まず実践してみましょう」「試してみましょう」

ワールド・ユーザビリティ・カフェ!

会場到着から勉強会開始までの間、テーブルで「使いにくいシステム」についての雑談が推奨されていました。その上で、ワールド・カフェでは「どうすれば『使いやすい』になるか?」をテーマに議論。盛り上がりました。:-)

テーブルで出た話から、少し抜粋してみます。こちらの記事の方と、同じテーブルだったようです。

社内システムは大体どの会社もイケてない

社内システムには、開発を始める前に一環した設計や思想を用意するべきだ。社員が使うだけの(=売り物ではない)システムでも、計画的にお金を投入する必要がある。また、UIの統一を図ることも大事。

デザイン業務に社内の人を活用する

良いデザインには、お金がかかる。これを次のように解決できないか?

  • デザインに詳しい人は、社内にひっそり存在していることが多い。発掘して活用していきたい。
  • デザインやモック作りの最低限の実践を各人が習得すれば、良いデザインを安く実現できるのではないか。

# 個人的に、デザインリテラシーという単語が浮かびました。

ヒット製品から優れたUIを学ぶ

ユーザビリティを学ぶために、皆で優れた製品を使ってみるという試みは有効かもしれない。特に、ゲーム機関連は、良くできている。使ってみて、何が良いのか考えてみるとよい。

  • 任天堂Wii
    • ボタンが大きい。また、カーソルオーバ時にコントローラが振動する。
    • 「Yes」ボタン、「No」ボタンではなく、「写真を保存します」ボタンと「写真を捨てます」ボタン。
  • AppleMac
    • 設定画面で「保存する」ボタンがない。変更するとすぐ反映される。
    • WindowsのUIに慣れていると違和感があるが、実は現実世界を模しているのでは。例:壁にある照明のスイッチ

感想

使いにくいシステムに必要なのは「思いやり」

柳生さんの「ユーザビリティとは、思いやりである」「アクセシビリティもまた、思いやりである」という言葉を聞いて、なるほどと思いました。

使いづらいWebサイトを使っていると、ツラいです。たとえば、ページが読み込まれた瞬間に全画面表示になる、音楽が鳴る、Flashで作られたスクロール機能の操作性が悪い…などなど。これは、そのサイトから使う人への思いやりを感じられないからではないか、と思いました。ちょっと感覚的な話になってしまいますが。。。

自分がWebシステムを作るときは、作り手がCoolだと思う表現や実装方法の凄さを見せつけることに走るのではなく、使う人への思いやりを一番に考えることを心がけたいです。

社内導入は「思いやり」と「お金の話」の両面から攻める

ユーザビリティの社内導入には、「思いやり」という感情に訴える説得と、「ビジネスチャンス」という論理に訴える説得の両方で攻めることが、有効なのではないかと感じました。柳生さんのお話にも、この2つの要素は繰返し出てきます。

開発者やマネージャに、ユーザビリティを気にかけるためのコストを納得してもらうには、ユーザビリティを上げることでお金が儲かる(品質が上がる)という話を抜きにはできないと思います。冒頭にのせたラクガキは、そんなことを考えて描きました。

この2つは別個のものではないというところが、実は面白いと思います。「思いやりのあるサイトを作っている」というブランディングが、今後はビジネスチャンスを生んでいくかもしれません。個人的には、そういう文脈で説得したいです。

Webユーザビリティを「知ってるつもり」にならないようにしたい

Webユーザビリティの知識を更新しようと思いました。

Webユーザビリティの基礎知識は、身につけやすいです。文字やリンクの大きさ、背景色と文字色のコントラスト、画像のaltタグの話など、誰でも一度は聞いたことがあるのではないかと思います。すぐに実践できるので、それ自体は良いことです。なのに、ぐうたらな自分は敷居が低いことに安心して、いつのまにか色々なことを「知ってるつもり」で済ませていました。それに気づいて、反省しました。

たとえば、数年前からある富士通ウェブ・アクセシビリティ指針は、自分も読んだことがあります。しかし、比較的新しい電子政府ユーザビリティガイドラインについては、まったく知りませんでした。

恥ずかしながら、過去の貯金で食っている、もしくは、食っているつもりになっていることを自覚しました…。ユーザが使うブラウザも、システムを実装する方法(言語含む)も日々変化しているので、もっとキャッチアップしていきたいです。

お礼

というわけで、とても楽しかったです。柳生さん、papandaさんをはじめ運営スタッフの皆さん、テーブルや懇親会でお話ししてくださった皆さん、ありがとうございました。:-)

参考資料

覚え書き。今回紹介してもらった資料のまとめです。ほかにもあったかも。

書籍

一番上の本は、柳生さんが発表の中で紹介してくださいました。あとは、個人的に読みたい本です。

ユーザビリティエンジニアリング―ユーザ調査とユーザビリティ評価実践テクニック

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デザイニング・インターフェース ―パターンによる実践的インタラクションデザイン

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特に、テスト関連が気になります。

実践ユーザビリティテスティング 「利用品質」を忘れていませんか (IT Architects’ Archive)

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