スーパーエンジニアへの道

先日のDB勉強会がとても面白かったので、講演者のミックさんつながりで、この本を読みました。『100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著』で、ミックさんはこの本を推薦されています。

スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学

スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学

部分的に読んだことはありましたが、通読したのは初めてでした。自省を促される本でした。それは、人が何かをしようとするときに陥る罠について、著者が丁寧に書いているからだと思います。

自分のやり方を省みたり、やり方を変えようとしたりする時、私たちはしばしば、自分に対する冷笑や羞恥心、虚栄心、弱いところを他人の目から隠そうとする本能のようなものに襲われ、なかなか実現できません。著者は、そのような反応が発生する理由までをも論理的に紐解き、読者に自認させながら、著者自身の体験を例に挙げて、どうすればよいかのヒントを語ってくれます。

以下、興味深い箇所をいくつか引用します。

仕事の相手は人間だという話

偉いさんゲームをしていない人は、ほかの人々がこちらのいったことをいつも完全に理解するとは限らない、という考えを受け入れることができる。それはばかな命令を見つけて拒絶してもらえる、という能力のために支払う安価な代価である。

G・M・ワインバーグ:『スーパーエンジニアへの道』,共立出版,p.198,1991.10.

コンピュータが自分の意図どおりに動かないときには、コンピュータに与えるプログラムをより正確に、より厳密に記述し直します。しかし、相手が人間である時、そうすることは逆効果だという話です。

# 余談ですが、3年ほど前、この問題の近くを通りかかったことを思い出しました。

この本では、すべての仕事は人間を相手にしているという当たり前のことが何度も強調されます。そのことは、動機づけに関して言及された第11章でいっそう顕著です。

仕事があるところには人がある。たとえその仕事が個人作業であってさえ、そうなのだ。(略)われわれの仕事にからんでくるのはわれわれの顧客かもしれないし、上司かもしれないし、代理人かもしれないし、社の会長であるかもしれないが、ともかく彼らは、直接には目に見えない存在である場合においてすら人であるのだ。

G・M・ワインバーグ:『スーパーエンジニアへの道』,共立出版,p.127,1991.10.
自分に根付いた規則を書き換える話

自分で作り出した規則に自分の言動を縛られているとき、その規則を少しずつ書き換える方法について述べられています。

本文に出てくる著者自身のエピソードが印象的です。子どもの頃の著者は、「助けてやりたいと思っている、といってくる人物を決して信用するな」「お前に一般的真理を教えようとするやつに注意」という規則に囚われていました。そのため、カーネギーの書籍『人を動かす』を、決して受け入れることができなかったといいます。大人になった著者は、上記の規則を、無理のない整合性の取れた規則に作り直すことで、くだんの本を平静に読めるようになり、感銘を受けたといいます。

(ふーん)

こういった考え方は、たとえば、不完全な完全主義を教条として持っているせいで、なかなか行動できないような場合に、自分が陥っている教条の罠を自覚し、そこから抜け出だす術として、役に立つだろうと思います。

自分自身をテストし続ける話

不得意なスタイルがあるとき、それを避けるためには、まずそれを強めなければならない、と著者は指摘します。不得意なスタイルは練習によってしか強化され得ないので、その機会を自分に与えよう、という話です。

私が(中略)完全には解き得ない問題に全然ぶつからなかったとしてみよう。それは私が完全に発達したパーソナリティを持っているからだろうか。そういうこともあり得ないではない。だが誰かが私を成長から保護している、という疑いの方が深い。そしてその誰かとは多分私だろう。

G・M・ワインバーグ:『スーパーエンジニアへの道』,共立出版,p.235,1991.10.

まとめ

古典といわれるだけのことはあり、書かれている内容の普遍性には目をみはるものがあります。

たとえば、(これはチープな例かもしれませんが)昨日のはてなブックマークの「最近の人気エントリー」を見ていたら、次の記事が上がっていました。

上の記事に挙げられた内容は、1986年に書かれたこの本の中で、ほぼすべて指摘されています。

少しだけ感想を書くつもりが、長くなってしまいました。まとめると、良い本でした :)