「アート・オブ・アジャイルデベロップメントへの道」へ行ってきた
木曜の夜、平鍋健児さん、木下史彦さんと岡島幸男さん(id:HappymanOkajima)のトークセッション「アート・オブ・アジャイルデベロップメントへの道」へ行ってきました。
アート・オブ・アジャイル デベロップメント ―組織を成功に導くエクストリームプログラミング (THEORY/IN/PRACTICE)
- 作者: James Shore,Shane Warden,木下史彦(監訳),平鍋健児(監訳),笹井崇司
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2009/02/18
- メディア: 大型本
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アジャイルを仕事で実践する方々のお話を聞けて、とても面白かった。復習がてら、ノートと記憶から抜粋してまとめてみました。参加しなかった知人にいつか読んでもらうことを想定して書いたら、長くなってしまいましたが。
導入
開始前に角谷信太郎さんが登場
- 『アート・オブ・アジャイルデベロップメント』はすごい
- 角谷さんが5年くらいアジャイルで試行錯誤してきて学んだことのほとんどが、この本の中にある
- しかも、ジェームズ・ショアはすごい人
- すなわち、この本はすごい
- 装丁も素晴らしい
- ビン、水や空間などの周りの環境と協調して、活き活きと伸びる木
- 木が伸びる方向は、木自身が知っている
- 周りと調和し、協調しながら成長する方法は、皆さん自身の中にあります
その後、セッション開始。
まず、お三方同士の他己紹介がありました。次に、翻訳の作業について。そして、だんだんアジャイルの話題へ。
サイエンスの対義語としての「アート」
本のタイトルに使われている「アート」という言葉は、芸術という意味ではない。
- サイエンス
- 再現できるもの
- アート
- 人が発見し、学び、作る技。絶妙なバランスで成立する何か。勘所。
アジャイルでの「組織的な成功」のために意識していること
p.5の図(アジャイルの「組織的な成功」、「個人的な成功」と「技術的な成功」の3つをバランスの取れたベン図にしたもの)を見ながら、岡島さん「これを見て、アジャイルが熟した印象を受けた」。
木下さんと平鍋さんは、組織的な成功を得るために、普段どんなことを意識してアジャイル開発に取り組んでいるか。
メンバーの成長とビジョンを意識(木下さん)
セカンドアダプタ・シンドロームの乗り越え方
p.58「セカンドアダプタ・シンドローム」とは、社内で最初のアジャイル開発プロジェクトが成功しても、2つ目のプロジェクトはコケやすいという話です。理由として、2つ目のアジャイルプロジェクトでは、最初のアジャイルチームほど環境的な条件が良くないということが、本では挙げられています。最初のアジャイルチームは、本当にアジャイルをやりたい人がチームに集まりやすい、お試し的な案件を与えられやすいなど、なにかと恵まれている。しかし、2つ目のプロジェクトは、そうではなくなる。
木下さんは、XPを継続して実践している。どうすれば継続して成功させられるのか。木下さんも、セカンドアダプタ・シンドロームを経験されたのか?
2回目は"XPごっこ"になってしまった(木下さん)
セカンドアダプタ・シンドロームは、人のラインで乗り越える(平鍋さん)
- 「XPだから上手くいった」と考えてやろうとすると、失敗するのではないか。
- 人が体験から得たものを無視してはいけない。次のプロジェクトも成功させるには、経験値を持つ人が必要。
- 成功したアジャイルチームのメンバーを次のチームにも2人入れよう。
木下さんと平鍋さんの最初のアジャイル開発の話をもう少し詳しく
- 木下さん
- 技術に明るい上司も巻き込んだ
- プロジェクトに専用ルームが割り当てられた。他人の目を気にせず、好きにできた
- ケント・ベックのXP本を読みながら、ああでもない、こうでもないと試行錯誤した。メンターはいなかったが、多くの発見があった。
- 平鍋さん
- 本を読んで「やってみたい」と思い、ある案件の前作業として、2週間から1ヶ月くらい実施した
- 実施してみて初めて分かることが色々あった。たとえば、ストーリーをタスクに分ける段階で、実はクラスの分析くらいまでやっている。タスクに分ける作業が設計になっている。
- アジャイルについて上司の理解を得るには、「XPを使うことで、組織が抱えている課題をどう解決できるか」さえ説明できれば大丈夫なハズ。
「アジャイルの凋落」をどう思うか
ジェームズ・ショア氏は、アジャイルの今後について悲観的な記事を書いているが……
楽観はしないが、やっていく(木下さん)
- 楽観はしない。がんばっていかないと。
- アジャイルを普及させるとかではなく、まず自分が仕事でやっていく。
火が噴いていてもメンバーが活き活きしてるアジャイルチーム
木下さんは、火噴きプロジェクトを担当することもある。普通なら、メンバーがへばってしまうような状況のはずのプロジェクトだ。しかし、(たしかに残業は多いが)チームメンバーが活き活きとしているように見える。それはなぜか?(岡島さん)
アジャイルで開発していると会話が多い(木下さん)
チームビルディング、プロジェクトファシリテーションのこと
ここで、平鍋さんから岡島さんに質問。
岡島さんは、ウォーターフォール文化の中で仕事をしてきて、なぜチームビルディングに焦点を当てるようになったのか? チームビルディングの本を書くに至ったのか?
チームの人間関係の問題を解決する手段としてプラクティスを使う(岡島さん)
- リーダーをするようになって、チームの問題は人間関係にあると気づいた。
- 解決方法を探していて、朝会などのアジャイルプラクティスを見つけた。
- ウォーターフォールならではの利点(顧客と別々に開発をする=顧客の目を気にせずに開発手法を選べる)を生かして、実施した。
- 顧客に説明せずに、開発中に朝会やふりかえりのプラクティスを取り入れても、害を与えることはない。結果として良いものを作れたらOK。
- 好きなプラクティスは、ふりかえり。
- プロジェクトファシリテーションをする上で重要なのは、運用をどんどん見直すこと。
- 上から押し付けると、アジャイルはうまくいかない。チームの意見を取り入れて、運用を改良していく。
アジャイルの課題とは
岡島さんから問題提起。
- アジャイルチームが書いたコードを、レガシー(な開発手法を採用している)チームが引き継ぐときに、引き継いだ側のチームにとって「やりにくい」と感じる部分があるのではないか
- たとえば、「システム全体に共通部分がほとんどない」など
木下さんと平鍋さんの考察
質疑応答
- 質問(1):「アジャイルの成功体験を持つ人を次のプロジェクトにも2人入れよう」について。なぜ2人?
- 回答(1):
- 2人と言ったのは、「最低2人は入れよう」という意味。(平鍋さん)
- XPはしんどい。文化的なコンフリクトが起こり、周囲を説得する必要に迫られることもある。そんなとき心が折れないように、仲間が必要だ。(平鍋さん)
- 質問(2):自分は社内でただ1人の開発者だが、アジャイル開発をしたい。どうすればよいか。
- 回答(2):
- 質問(4):アジャイルで開発したときのお客さんの反応は?
- 回答(4):
感想
開始直後、岡島さんが「この3人の誰とも面識のない方、います?」と会場に投げかけました。手を挙げた人(私含む)の数が、参加者全体の4分の1以下でびっくり。もしかして、なにか共通の前知識が必要なのかな?と心配に……でも、終わってみると杞憂でした。
『アート・オブ・アジャイルデベロップメント』の本の中身と同じく、具体的、実用的な話が盛りだくさんでした。「こういうときはどうしたらいいの?」という参加者の質問に対して、即座に「こんなふうにやってみたらどう?」「自分はこうやった」と返してくれるのがすごい。平鍋さんのいう「人に蓄積されていく経験、アート」を垣間見た気分でした。もっともトークセッションなので、アートが言葉として発現したのを聞いただけにすぎませんが。達人によるこれらの開発現場での実践=アートなんでしょうね。
そういえば、平鍋さんが話してくれた上海での事例が面白かったです。部屋の空気を入れ換えようという話をきっかけに、チームの空気が変わったわけですね。うまい!(と、勝手にツボに入っていました(^^;)
セッション中、社内事例の話がいろいろ出ました*1。プログラマ志望の就職活動中の学生さんが今回のトークセッションを聞いたら、お三方の会社のファンになるんじゃないかな。私は、学生でもないくせになりましたよー。「良いと信じるやり方があるならやってごらん。もちろん成果はだしてね」とチャンスを与えるのって、健全な文化だなぁ。
楽しいトークセッションをありがとうございました。行ってよかったです。
さて、セッション終了後、「アジャイル話をもっとしたくて懇親会に飛び入り参加したら、懇親会=オブラブの春イベントだった件」に続く(かもしれない)。
*1:Webで再現してよいものか迷ったので、上のまとめではかなり省きました