プレイフル・シンキング
これは、仕事をどうやって楽しいものにするかという考え方と方法の本です。
- 作者: 上田信行
- 出版社/メーカー: 宣伝会議
- 発売日: 2009/07/03
- メディア: 単行本
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あまのりょーさんがinbookでたくさん引用なさっていたのが気になったので、図書館で借りてきて読みました。
目標を自分なりの課題に設定しなおすこと
確かに、おもしろくない仕事は山のようにある。(略)ただしそれは、あなたがその仕事を「おもしろくない」と感じているだけであって、「おもしろくない仕事」が存在するわけではないのである。
(略)ここで大事なことは、自分なりに課題を設定しなおして、「これは私の仕事ではない」を「これは私の仕事だ」に変えることである。
上田信行:『プレイフル・シンキング』,宣伝会議,p.48, 2009.7.
自分の夢を実現するためだと思えば、目の前の仕事からも何か学ぶことがあることに気づくだろう。そういう意識でいまの仕事を眺めてみれば、「よし、この仕事ではこれを克服しよう」「この仕事では自分にこういう課題を与えてみよう」という意欲もわいてくる。
上田信行:『プレイフル・シンキング』,宣伝会議,p.72, 2009.7.
本文ではさらに具体的に、組織や上司などの他人から課された目標を自分の目標として捉え直す話や、他人から成果を求められる短期目標を、自分で設定した長期目標の一プロセスとして位置づけ直す話が出てきます。
実際問題、社会にも顧客にも会社にも自分にも意味がないと思えるような仕事は、(体力に余裕がある会社には)実在するので、そういう状況でも上のように考えようと努めるのは、キッツいだろうなあ〜〜という気もします。しかし、それでもやはり、自分の考え方ひとつの問題だというのは、ある側面での事実だとも思います。
ところで、これを読んで思い出したのは、monjudohさんのエントリでした。
- 自分の見方とお客さんの見方は違う、もしくは違ってもいい http://d.hatena.ne.jp/monjudoh/20100114/1263491284
上のエントリでは、自分にとって楽しいと思える仕事の結果が、結果としてお客さんへの貢献になることに上手くマッピングされるのであれば、自分の楽しさをお客さんが正確に理解していなくても問題ない、という考え方が書かれています。組織の内側だけでなく、ビジネスのお客さんをも考慮しているという意味で、『プレイフル・シンキング』の内容よりも、さらに広い視野の考え方かもしれませんね。
いずれにしても、共通点は、「やる気が出るように目標を自分ごととして調整する」ことです。
本人のやる気を強制的に上げようとして無理やり型にはめたモチベーションは、長続きしないだろう。それよりも、仕事の意味づけを変えたり課題を設定しなおしたりして、自分にとっておもしろい仕事に変えていくことが、モチベーションを高めるうえでも有効なアプローチ法なのではないだろうか。
上田信行:『プレイフル・シンキング』,宣伝会議,p.58, 2009.7.
協働について
上の考え方は、他者にも当てはまるよ、という話。
たとえばチームで課題に取り組むとき、あなたは相手と協働していきたいと思っているのに、相手の態度がそれほど乗り気ではない場合もあるだろう。
上田信行:『プレイフル・シンキング』,宣伝会議,p.p.133-134, 2009.7.
全員がプロジェクトに乗り気なわけではない状況は、残念ながら日常茶飯事だと思います。いきなりドナドナされて参画しました、というような状況で、俄然やる気になれるのは、デスマ職人くらいかと……。
この本では、課題を「自分に課されたもの」と捉えるのではなく、「状況や他人をいかに上手に使って良い結果を出せるかを考えるためのもの」と捉えることを推奨しています。そのため、他者との協働の話もたくさんあり、その中で上手い示唆が示されています。
そんなときは、あなたのメタ認知をフル回転させてみてほしい。相手がなぜ乗り気ではないのかを考えてみるのだ。もしかしたら、その課題に対して興味がわかないのかもしれないし、できるかどうか不安に感じているのかもしれない。あるいは、あなたのことをあまりよく知らないからそのような態度になっているのかもしれない。状況をメタ認知してみることで、お互いの関係構築を阻害している要因やその改善策が見えてくるかもしれない。
上田信行:『プレイフル・シンキング』,宣伝会議,p.134, 2009.7.
状況をメタ認知できたら、次のステージとしては、対話を通して共感的な理解を得ていくことだ。「あなたはこの仕事についてどう感じているの?」「何かやってみたいことはある?」といった問いかけを通して、相手がなぜ乗り気ではないのか、その理由を探っていくとよい。
上田信行:『プレイフル・シンキング』,宣伝会議,p.134, 2009.7.
その上で、相手にとって仕事が面白くなるような意味づけを二人で考えるのだそうです。
振り返ってみると、以前、自分もマネージャからこういう対応をしてもらった経験があったことを思い出して、ちょっと胸打たれたのでした。ウゾームゾーの複数の人間を巻き込んで仕事をする人にとって、これができるのとできないのとでは、他者の協力を取り付ける力が段違いになるのだろうなと思いました(ちなみに、そのマネージャは、優秀な人だったと思います)。
創造的借用
アウトプットのよいところは、可視化したり言語化することで自分なりにメタ認知できるだけでなく、他者とも共有できるようになることだ。
(略)
また、アウトプットは学びそのものの行為でもある。よく、知識や情報を「インプット」することが学びだと誤解されがちだが、それは違う。アウトプットする過程において、インプットした知識や情報を自分なりに咀嚼し、意味の組み替えや再構成を行うことで自分のものにしていくことができるのである。これを「創造的借用(appropriation)」という。
上田信行:『プレイフル・シンキング』,宣伝会議,p.103, 2009.7.
appropriationにそんな意味があったとは初めて知りました。教育分野での用法なんですね。(http://en.wikipedia.org/wiki/Appropriation_(education))
分かったつもりのことや何かを考えた経過などをテキストやコードに吐き出すのは、意味のあるプロセスなんだなと再認識しました。
実際、アウトプットすることで初めて自分の論理の瑕疵に気づいたり、まわりの人からフィードバックをもらって考えが進んだり改まったりすることがあるので、きっとそれは正しいのでしょう。……来年は、もっとやりたいなぁ。
環境が引き出す力
大学で先生をされている著者は、入学式のオリエンテーションで、学生に風船を使って自己紹介をしてもらうのだそうです。
単に「自己紹介をお願いします」といっても、「私は○○県出身です」といったありきたりの自己紹介になってしまって、おもしろくない。そこで、風船を渡して、いまの気持ちを風船に書いてもらっている。
風船に何を書こうか考えるときは、大抵楽しいことを考えるもの。自分が好きなことや、大学でやってみたいことなど、風船には夢や希望があふれたコメントがたくさん書かれることになる。
上田信行:『プレイフル・シンキング』,宣伝会議,p.148, 2009.7.
デザインを意図して使えると、こんな効果が引き出せるんですね。
ふと思い出したのは、以前DevLOVEで見た、小さな紙にタテ軸とヨコ軸を配置した自己紹介シートです。マトリクス型フォーマットのポジションペーパーとでもいうのでしょうか。たしかに、あの一風変わった紙と色とりどりのサインペンが並んでいれば、おカタい自己紹介には陥りづらいだろうな、と今さらながら感心しました。
本の中では、備品や空間デザインなどの物理環境のデザインの話がメインでしたが、システムやサービスのGUIのデザインにも、きっと同じことがいえるんだろうなと思いました。
たとえば、「社内SNSで皆のアイデアを集めましょう」というような企画をした時、SNSのGUIデザインが貧相だったり、折り目正しすぎたりしたら、出るはずのアイデアも出なくなってしまうようなマイナスの効果が、もしかしたらあるのかもしれません。
目的に沿った行動を引き出すようなデザインの使い方が、できるようになりたいなぁと思いました。