第24回XPユーザ会へ行ってきた
3月最後の金曜日、第24回XPユーザ会へ行ってきました。
テーマは、「アジャイルな見積りと計画づくり」。
アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~
- 作者: Mike Cohn,マイクコーン,安井力,角谷信太郎
- 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
- 発売日: 2009/01/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 74人 クリック: 764回
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当日、安井力さんと角谷信太郎さんの講演を聴いて以来、漠然と考えていることがあります。それは、ソフトウェア開発での勇気と覚悟について。
お二人の発表を聞いていて、自分の勇気と覚悟を問われているような気持ちになりました。「人について、あなたは何を本当に信じているか」とストレートに問う角谷さんの熱い講演からはもちろん、安井さんの穏やかな講演からも、「変化を受け入れる覚悟」と「正体不明のものに挑んでいる現実を直視する勇気」を静かに力強く問われているように、私は感じました。
正直、勇気と覚悟を受け入れることは、私にはまだまだ足のすくむ話です。そこに立ち続けている人たちを尊敬します。今日は、あの日から考えていたことを書いてみます。
当日の映像はこちら。あまのりょーさんが撮影&アップしてくださいました。10qです!!(^^)
宝探しとシステム開発
会場で笑いが起きたように、宝探しに行く前に詳細なWBSを作る*1ことを、私たちは滑稽であると感じる。しかし、システム開発で、私たちは大真面目にWBSを作っている(少なくとも私は作る)。
なぜだろう? 宝探しとシステム開発では、何が違うんだろう?
- 宝探し
- メンバーは、危機がランダムに起きうると知っている
- メンバーは、臨機応変な対処が必要であることを覚悟している
宝探しでは、当然、誰もが道中起こりうる危機を想定している。ここで重要なのは、クマが出るとか森に迷うとかいった個々の危機を具体的に分析することではない。それよりも、想定外のことが起きる可能性を皆が共有していることこそが、重要なのだ。つまり、「予想外のことが起きるかもしれないけど、そうなったらなったで、対処しよう」と皆が覚悟しているということだ。だからこそ、最初の地図が間違っていたというメタな問題が起きても、あわてず騒がず「じゃあ書き直そう」と淡々と対処できる。
システム開発ではどうか。
システム開発でも、皆が危機を想定している。しかし、そこからの行動と考え方が、宝探しと異なっている。私は、危機を想定したら、個々の危機をできるだけ詳細に分析しようとする。危機が現実化する可能性、影響度、対応などをあらかじめ考えて、死角からの脅威を少しでも減らそうとする。その過程で、もしかすると、将来にわたるすべての危機を洗い出せたような気になってしまうのかもしれない。
「危機とその対策を十分考えた。これでもう、途中で臨機応変な対応をしなくて済むだろう」と。
ソフトウェア開発は動的だから、危機はなくならない
しかし、いくら先手を打った気になっても、脅威は決してなくならない。きっと、ソフトウェア開発でリスクをすべて洗い出すことは、バグゼロと同じくらい不可能だ。
それなのに、私は、変化を最小限に抑えようとする。危機を制御できるつもりになろうとする。
なぜか?
それは、おそらく恐怖のためだ。恐怖のあまり、想定外の危機から目を背けようとしている。
私は、いろいろなことが怖い。要件が決まらないのが怖い。実装でハマるのが怖い。製品のバグが怖い。工数が膨らむのが怖い。メンバーが倒れるのが怖い。リリース後の障害が怖い。顧客のため息が怖い。上長の追及が怖い。……
だから、石橋を叩いて叩いて、慎重を期して渡ろうとする。足元の橋が固定されていることを、おそるおそる確認しながら。
けれど本当は、たどり着こうとしている対岸は、動き回るイキモノなのだ。
彼は――開発しようとするシステムは、生きているから、じっとしていない。大きさも動く速さも一定ではない。だから、対岸までの距離は伸び縮みするし、標高も変わりうる。そのため、渡るための手段も、本当は橋ではなく、ボートか何かが適切なのだ。
対岸すなわちシステムも、行き着く手段である計画も、どちらもおそろしく動的だ。
心もとない現実から逃げずに、受け入れる勇気が欲しい
これは、なんと心もとない話だろう。
大勢の人が、膨大な時間とお金をかけて作っているモノが、実はワケの分からないイキモノだなんて、深く考えると怖すぎる。しかも、その仕事で自分が生計を立てているとは、考え方によっては足元をすくわれるような感覚だ。
しかし、安井さんの講演を聴くうちに、その心もとなさと正面から向き合う勇気を問われているような気がしてきた。
現実を見よう。対岸はイキモノだ。
状況の変化に合わせて、計画も変化させよう。
「変化するために計画をたてる」
では、変化に強い計画を作ればいいのだろうか? 私がそう思った次の瞬間、安井さんがおっしゃった*2。
「変化してもよい計画、じゃないですよ。変化するために計画をたてる」
このシンプルなメッセージは、強烈だった。
「変化してもよい計画」という言葉を、初めて「受身だな」と感じた。「変化してもよい計画」は柔軟な響きだ。どちらかというと、好きな言葉だった。しかし、実は、変化に対してとても防御的なのではないか。
それに対して、「積極的に変化するために計画をたてる」。この攻めの姿勢はどうだろう。なんて、元気がでるんだろう…。
今まで、WBSを引きながら計画を固めることで、私は変化を殺そうとしてきた。それは、システムが良くなる可能性を殺そうとすることだった。変化は、忌避すべきものではなかった。顧客とともに変化することで、もっと良いシステムを作れるはずで、逆にいうと、変化を受け入れるからこそ、良いシステムを作れるのだった。
変化は、それから逃げるどころか、むしろ追い求めても良いくらいのものだった。
というわけで…
あの夜から、心もとない現実と向き合う勇気を、楽しむ余裕を、もっと持ちたい!と思いつづけています。いつか、「良いものを作りたいから、一緒に変化しましょう」と顧客に言えるくらいになりたいな。
あの日、すばらしい時間を共有した皆さま、ありがとうございました♪